私たちは、光や音などのたくさんの刺激に囲まれながら生活しています。そのたくさんの刺激が身体に加わっていることを感じるはたらきを感覚といいます。人間の感覚には、「自分で意識しやすい感覚」と「ほとんど自覚せずにつかっている感覚」の2つがあります。まず,「自分で意識しやすい感覚」には,既によく知られている五感(触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚)です。次に「ほとんど自覚せずにつかっている感覚」には触覚、固有感覚(手足の状態・筋肉の伸び縮みや関節の動きを感じる感覚)、平衡感覚(身体の動きや傾き、スピードを感じる感覚)があります。
感覚は人それぞれ、感じ方の強弱や程度に差があります。例えば同じ温度の食べ物を食べても「とても熱い」と感じる人と、「全然熱くない」と感じる人がいるように、すべての感覚は一人ひとり感じ方が違ってきます。これらの感覚は、生活していると、絶えずさまざまな感覚器官から入ってきます。私たちの脳は、このたくさんの感覚をきちんと分類したり整理したりすることができ、これを統合といいます。人がその場の状況を判断して,それにふさわしい反応をするために欠かせないものです。このように,人の発達の中で,脳が内外からのたくさんの刺激を有効に利用できるよう,能率的に組み合わせることを「感覚統合」といいます。
エアーズ博士(アメリカの作業療法士)は、この統合という機能は言わば交通整理をしている警官のようなものと例えています。たくさんやってくる車を警官がきちんと整えることでスムーズに車が走ることができるように、身体に入ってくる感覚に対して統合機能が正しくはたらくことで、正しく感覚を整理し、取り入れることができます。しかし交通整理ができていないと、車はどこを走っていいか分からなくなり、混乱し、渋滞してしまいます。統合がうまくいかないと、次々にやってくる感覚の強弱を調整したり、感覚を受け入れる量を調節することがうまくできず、混乱してしまうという状態を引き起こしてしまうのです。
このはたらきによって、その場その時に応じた感覚の調整や注意の向け方ができるようになり、自分の身体を把握する、道具を使いこなす、人とコミュニケーションをとるというような周囲の状況の把握とそれをふまえた行動ができるようになります。
感覚統合は幼少期の日常生活の遊びや生活の中で完成されていきます。このことからも分かるように,感覚統合に働きかけるために大切なことは,対象の子どもが何をやりたいと思っているかをしっかり把握することです。子どもは,その発達段階においてー番適した感覚経験を求めるものです。
つまり,子どもが欲しがる刺激がその時に一番必要な感覚刺激であったりします。
- 身体の触れ合う遊び(くすぐり、ごっこ、抱きしめ、ボールプール等)
- 人にしてもらいって楽しい活動(抱っこ、クルクル回ったり等)
- 人に手伝ってもらって楽しい活動(トランポリン等)
- 人とやりとり遊び(キャッチボール等)
普段私たちが目にする子どもの姿は氷山の一角で、その土台となっているのが五感、固有感覚、平衡感覚なのです。これらはいわば積み木で作ったピラミッドのようなもので、土台となる一番下の積み木が1つでも抜けたり、不安定だったりすると、2段目、3段目の発達が脆弱になり、感情や学習・生活態度にまで影響を及ぼしてしまいます。